[COLUMN] 未来の記憶

私たちが大切にしているもの。確かにあるのに指差すことができない。それは、目に見えるものばかりではありません。それらを、ひとつずつ読み解き、丁寧に表わしていく言葉の集積です。
「未来の記憶」
季節の変わり目に親戚が集まる風習があった。夕刻、大きな食卓には大勢の人が集まってくる。湯気を立てている肉料理を囲んで、周りには季節の野菜をあしらったサラダ、切りたての刺身の盛り合わせ、木の子のマリネ、豆料理、庭で摘んだ紅葉のあいだに銀杏が顔を覗かせる色とりどりのちらし寿司、たくさんの料理が並ぶ。大人たちがどっと笑い出す声、誰も彼もが上機嫌だ。子どもたち用にと設えられたテーブルには、子ども用の茶碗、汁椀、小ぶりの皿、それぞれに色が割り当てられた短い箸が並べられた。妹は薄いピンクの花柄、姉は紫、私は赤、従兄弟たちは水玉がついていたり、青と白の縞模様だったりした。自分の赤色が一つだけ子どもっぽい個性を主張しすぎているような気持ちになり、紫がやけに大人っぽく感じたものだ。宴は深夜まで続き、どんな風に更けていったのか子どもだった私にはわからない。そんな夜は心がわくわくと弾み、いつでも興奮が冷めやらないまま眠った。

今もそれらは祖母の台所の食器棚と抽斗に、変わらない面持ちで片付けられている。もしかしたら、従兄弟たちの娘や息子が、そっとガラス戸を開けて自分の茶碗を選び、食卓に並べているかもしれない。出番を待つ小さな食器。食事がはじまる華やいだ気持ち、音や匂い。誰かが名前を呼ぶ声、窓の外の夕闇の色。誰にとってもその日その日の食卓の情景は、記憶の中にそっと刻まれていく。たった一枚のお皿を手に取った時、記憶が一瞬でよみがえる。二度と戻らない日々の、小さく輝くような時間が。


イラスト:濱愛子
テキスト:スティルウォーター

[ILLUSTRATOR PROFILE]
濱愛子 (イラストレーター/グラフィックデザイナー)

紙版画を用いて、情感と力強さのある作品づくりを目指し、本、雑誌、広告に取り組んでいる。最近の仕事では、詩画集「今夜 凶暴だから わたし」(詩/高橋久美子、ちいさいミシマ社刊)、また、日本美術や、茶道具の世界で使われてきた形について紐解く「かたちのなまえ」(野瀬奈津子著、 玄光社刊)。それぞれ一冊を通して絵を担当している。HBギャラリーファイルコンペ大賞/永井裕明賞、東京イラストレーターズ ソサエティTIS公募入選(灘本唯人氏 「わたしの一枚」)、ADC入選、他。TIS会員。
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