[COLUMN] 人の仕事

私たちが出会った素敵な人たちに、その人の「視点」を綴っていただくコラムです。集まってくるさまざまな物語の中で過ごす、ゆたかな時間をお楽しみください。
「人の仕事」
「人の仕事」という言葉を、ある若い猟師から聞いた。物心ついた頃には祖父の家業である猟師を継ごうと決めていた彼は、森に入り、猟師として生計を立てるようになってから、十数年になる。

毎朝早くから、愛犬と共に森に入る彼は、日々、森を歩くうちに、あることを感じるようになった。木は木の仕事、土は土の仕事、風は風の仕事、水は水の仕事をしている。木々は大きく枝を広げ、緑を湛え、多くの生きものたちの暮らしの場を作る。土はそんな木々を支え、枯れ木や落ち葉を新たな命へと循環させる。風は茂りすぎた枝葉を落とし光を届け、水は大地をけずって様々な地形をつくり養分を運ぶ。

そんな森の中で、自分の仕事は何だろう。彼はいつしか、そんな風に感じるようになった。彼はまず、森を注意深く観察することから始めることにした。自分の入る森で何が起こっているのか、五感を研ぎすませながら観る。しばらくすると、風の通りが悪い場所、水の流れが滞っている場所に気がつくようになった。折れたままになっている枝、沢に溜まった落葉、風の流れや水の流れが詰まっている場所を見つけると、身体が自然に動き、その詰まりを取った。夢中になって、気がつくと日が暮れかけていたこともあった。

そんな日々を繰り返していたある日、生きものがいなかった沢の淀みに、サンショウウオを見かけるようになった。茂みだった場所に新たな植物が生え始めていた。森はその美しさと豊かさをましていた。「一人でやっているんじゃない」。自然と呼応している実感に、深いところからよろこびが込み上げてきた。

風通しのいい場所、美しい流れのある場所、日当りのいい場所。私たちは誰に教わるでもなく、そんな場所を心地いいと感じる。巡りのある場所、流れのある場所、そこには光が溢れ、生命が溢れる。暮らしのなかに巡りを生み出す、流れを生み出す、つながりを生み出す、美しさを引き出す。毎日森に入ることはなくとも、私たちにできる「人の仕事」はあるのかもしれない。

「暮らすことが、ただただ楽しい」そう微笑む彼のおだやかな笑顔は、自然の営みに寄り添う「人の仕事」が、生きることの根源的なよろこびにつながっていることを、静かに教えてくれている気がした。

[WRITER PROFILE]
内野加奈子 (海の学校主宰)

ハワイ大学で海洋学を学び、ハワイ州立海洋研究所でサンゴ礁モニタリングに携わる。海図やコンパスを使うことなく、星や波など自然を読み航海する伝統航海カヌー<ホクレア>の日本人初クルーとして、歴史的航海となったハワイ—日本航海をはじめ、数多くの航海に参加。現在、自然をベースにした学びの場づくりにも取り組む。著書『ホクレア 星が教えてくれる道』(小学館)は高校教科書に採録。他に海の絵本シリーズ『星と海と旅するカヌー』『サンゴの海のひみつ』(共にきみどり工房)など。