[COLUMN] 「嗜む」のすすめ

私たちが大切にしているもの。確かにあるのに指差すことができない。それは、目に見えるものばかりではありません。それらを、ひとつずつ読み解き、丁寧に表わしていく言葉の集積です。
「『嗜む』のすすめ」
人生はあっという間に過ぎ去ってしまうもの。時間は無情にも有限で、予定のないたっぷりとした幸運な1日も、日々やり残してきた些末な用事に、瞬く間に埋め尽くされてしまいます。朝の空をゆっくり横切るヒバリも、膨らんできた芍薬の蕾も、英字で書かれた雑誌の見出しの意味も、少しゆとりがなければ目に止めることがない景色。世界は惜しみなく美しい瞬間や、面白おかしい要素を投げかけてくれるのに、私たちはその多くを見落としてしまいます。この世を去る時が来たら、人は自ずと、自分の人生を愛していたかどうかを問う、と聞いたことがあります。“誰か”や“何か”ではなく、“人生”を愛せたか?あなた自身を愛せましたか?と。大切な問いではありませんか。

こんな大事な問いかけを、わずかに残された時間のなかで振り返って嘆いてもあとの祭り。そう、だから今から人生を“愛する”準備をしませんか?仕事と家事の隙間にある、ほんの密かな楽しみのことを連想してみては如何でしょうか。晴れた早い時間の午後、単行本を片手に何時間でもお風呂で過ごし、読書を嗜む。料理を作りながら今夜の魚介類のソテーには、どんなワインが合うだろう?味見がてらにコルクを抜き、切子ガラスのグラスに注ぐ。お酒を嗜む。季節ごとに気分を変えるために、1枚、とっておきの古いレコードを買い足していく。音楽を嗜む。愛してやまない瞬間を持っていることを、嗜むと言うのでしょう。没頭するわけでもなく、さりげなく楽しんでいる瞬間。この時間の積み重ねが、きっとあなたに自分を好きになることを許していくでしょう。私たち日本人は何故か、ウキウキ密かな楽しみに打ち込む自分を、なかなか許すのが苦手なようです。あなたは何を、「嗜み」ますか?


イラスト:濱愛子
テキスト:スティルウォーター

[ILLUSTRATOR PROFILE]
濱愛子 (イラストレーター/グラフィックデザイナー)

紙版画を用いて、情感と力強さのある作品づくりを目指し、本、雑誌、広告に取り組んでいる。最近の仕事では、詩画集「今夜 凶暴だから わたし」(詩/高橋久美子、ちいさいミシマ社刊)、また、日本美術や、茶道具の世界で使われてきた形について紐解く「かたちのなまえ」(野瀬奈津子著、 玄光社刊)。それぞれ一冊を通して絵を担当している。HBギャラリーファイルコンペ大賞/永井裕明賞、東京イラストレーターズ ソサエティTIS公募入選(灘本唯人氏 「わたしの一枚」)、ADC入選、他。TIS会員。
https://aikohama.com/

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