私たちが出会った素敵な人たちに、その人の「視点」を綴っていただくコラムです。集まってくるさまざまな物語の中で過ごす、ゆたかな時間をお楽しみください。
これらはそれぞれ別の尊敬する方から頂いた言葉で、移住して新規就農した時から大切にしている。
移住した当時、一年間自然農法の研修を受けたとはいえ農業の右も左もわからない自分は具体的に何をしたら良いのかわからなかった。
それでも無我夢中に目の前のことに取り組んでいった。
「農業は芸術だから額縁から綺麗にしなさい」
その言葉どおりに田畑の周りの草刈りをひたすら頑張る日々。
山間部なので草刈りの面積は多くて、田畑の中での作業よりも田畑の周りの草刈りの方に時間と労力を費やす日々。
大変だけど草刈りをした後は風が流れて、青草が乾いていく時の香りがして心地良い。
地元の方も草が伸びてはこまめに刈るので集落全体に風が通る。
山から降りてきた風が田畑を抜けて川に至るようになると空気の動きが淀まなくなり、とても心地が良い。人間が気持ち良いのだから植物達も心地が良いだろう。
そっか、美しい風景というのはただ眺めが良いというのではなく、風が淀みなく動くことによって生き物達が生き生きしている様なのではないだろうかと思い至る。
しかし、自然はもっと奥深かった。
「地上と同じように大地の中にも風が吹いている」
と教えてくれる人に出会ってしまったのだ。
「大地の中の空気と水の動きが滞ることにより、植物は弱り、その結果自然の呼吸が弱り、自然全体が機能不全を起こしている」と言うのだ。
ここ蒜山でもナラ枯れが発生し、10年くらい前からは山の鹿や猪が里に降りてくるようになった。川の水も減少し、川魚達の姿も消えてしまった。
そんな状況で僕は何をしていけば良いのだろう?
それに対するヒントを自然は僕に与えてくれている。
そのヒントの一つは猪である。
猪は作物を食べてしまうし、あらゆるところを掘り返してしまう。厄介者である。
その力は凄まじく、どうやってこの岩を動かすのかと思うほどである。掘り返す理由はミミズを食べるとか植物の根を食べるためとも言われるが、食べ物も無さそうな所もかなり掘り返していて不思議に思う。
さらに観察していると掘り返す場所は水はけの悪い場所が多い。
そうした滞っている場所は植物も元気が無いし、掘ってみると還元臭という臭いガスが湧いている。
犬と同等かそれ以上の嗅覚を持つという猪がこれに気づかない訳が無い。
食べ物を得られなくても掘ることで環境改善をする。
たしかにそれによって動植物が元気になれば食べ物も増えるはずだ。
そこまでの考えは無いにしても、自然界の摂理の一つとして猪のこの働きがあると思うのはロマンチック過ぎる考え方だろうか。
昨年お亡くなりになってしまった地元の長老が生前にこんなことを言っていた。
「最近は山の中が臭くなった。」
僕にはその臭いは感知できないけれど、大地の中と地上の風通しが悪くなっていることをその長老は五感で感じていたのだろう。
美しい風景とはそこに息づく生き物が生き生きとしている様そのもの。
地上だけでなく大地の中の風通しを良くすることで空気と水が一体となって動植物を元気にし、結果としてそれが美しい風景になるのだと思う。
それが正しいのかどうかはわからないけれど、自然から学び、考え、実践していくことが農業においても暮らしにおいても必要なこと。
こんなにも身近で好奇心をそそり、面白くて、しかも実生活に直に反映される働きができるのは田舎暮らしの魅力の大きな一つだと思っている。
移住した当時、一年間自然農法の研修を受けたとはいえ農業の右も左もわからない自分は具体的に何をしたら良いのかわからなかった。
それでも無我夢中に目の前のことに取り組んでいった。
「農業は芸術だから額縁から綺麗にしなさい」
その言葉どおりに田畑の周りの草刈りをひたすら頑張る日々。
山間部なので草刈りの面積は多くて、田畑の中での作業よりも田畑の周りの草刈りの方に時間と労力を費やす日々。
大変だけど草刈りをした後は風が流れて、青草が乾いていく時の香りがして心地良い。
地元の方も草が伸びてはこまめに刈るので集落全体に風が通る。
山から降りてきた風が田畑を抜けて川に至るようになると空気の動きが淀まなくなり、とても心地が良い。人間が気持ち良いのだから植物達も心地が良いだろう。
そっか、美しい風景というのはただ眺めが良いというのではなく、風が淀みなく動くことによって生き物達が生き生きしている様なのではないだろうかと思い至る。
しかし、自然はもっと奥深かった。
「地上と同じように大地の中にも風が吹いている」
と教えてくれる人に出会ってしまったのだ。
「大地の中の空気と水の動きが滞ることにより、植物は弱り、その結果自然の呼吸が弱り、自然全体が機能不全を起こしている」と言うのだ。
ここ蒜山でもナラ枯れが発生し、10年くらい前からは山の鹿や猪が里に降りてくるようになった。川の水も減少し、川魚達の姿も消えてしまった。
そんな状況で僕は何をしていけば良いのだろう?
それに対するヒントを自然は僕に与えてくれている。
そのヒントの一つは猪である。
猪は作物を食べてしまうし、あらゆるところを掘り返してしまう。厄介者である。
その力は凄まじく、どうやってこの岩を動かすのかと思うほどである。掘り返す理由はミミズを食べるとか植物の根を食べるためとも言われるが、食べ物も無さそうな所もかなり掘り返していて不思議に思う。
さらに観察していると掘り返す場所は水はけの悪い場所が多い。
そうした滞っている場所は植物も元気が無いし、掘ってみると還元臭という臭いガスが湧いている。
犬と同等かそれ以上の嗅覚を持つという猪がこれに気づかない訳が無い。
食べ物を得られなくても掘ることで環境改善をする。
たしかにそれによって動植物が元気になれば食べ物も増えるはずだ。
そこまでの考えは無いにしても、自然界の摂理の一つとして猪のこの働きがあると思うのはロマンチック過ぎる考え方だろうか。
昨年お亡くなりになってしまった地元の長老が生前にこんなことを言っていた。
「最近は山の中が臭くなった。」
僕にはその臭いは感知できないけれど、大地の中と地上の風通しが悪くなっていることをその長老は五感で感じていたのだろう。
美しい風景とはそこに息づく生き物が生き生きとしている様そのもの。
地上だけでなく大地の中の風通しを良くすることで空気と水が一体となって動植物を元気にし、結果としてそれが美しい風景になるのだと思う。
それが正しいのかどうかはわからないけれど、自然から学び、考え、実践していくことが農業においても暮らしにおいても必要なこと。
こんなにも身近で好奇心をそそり、面白くて、しかも実生活に直に反映される働きができるのは田舎暮らしの魅力の大きな一つだと思っている。
[WRITER PROFILE]
高谷裕治・絵里香(蒜山耕藝 代表)
岡山県と鳥取県の狭間にある蒜山・中和地域で農家を営む。もともと食を通じて農業に興味を持ち、2010年に千葉県富里市の自然栽培農家のもとで研修を開始。翌年に蒜山・中和へ移住。稲作中心の農業を営むかたわら、米や農作物の加工品を販売し、2014年には自分たちの食卓、作業場を開く場として「くど」をオープン。