Text: Ben Davis (The White Paper)
Translation: Yuto Miyamoto
Video: Masaki Miyamoto
Special Thanks: Furuhashi Weaving
Futoのエプロンに使用される高密度の綿織物の起源は、馬術の世界にまで遡ります。しっかりとした厚手の綿であるバフクロスは、鞍の下に敷くことで馬の背中を守る馬布(ばふ)を由来としています。その硬い布は、時間とともに少しずつ柔らかくなり、風合いを増していきます。「これくらい高密度の生地は、遠州地方(静岡県西部)ならではのものです」と話すのは、KINTOの企画開発チームの坂田。「もう本数が数えられないくらい、経糸(たていと)の密度がこんでいるんです」
この特別な生地をつくるのは、1928年より家族経営で布の製造を行ってきた古橋織布。浜松の工場には昔ながらのシャトル織機が20台並び、綿などの天然繊維を時間をかけて織り上げることで、独特な柔らかさと温もりのある高密度の生地をつくっています。そしてこの機能性と親しみやすさの両方を兼ね備えた古橋織布の高密度の生地は、KINTOが考える理想のエプロンにぴったりのものでした。家でコーヒーを淹れるときや料理をするときだけでなく、日々の作業─例えば庭仕事をするときにでも使えるエプロンに。
古橋織布に残る「ノコギリ屋根」は機屋(はたや)を象徴する昔ながらの風景。細い糸や織物の仕上がりを目で確かめるために、適切な採光が大切にされてきた。
近くには浜名湖があり、湖の周辺はのどかなひらけた風景が広がる。
「エプロンって少しラフに使うイメージがあるので、しっかりとした厚みがあることが重要でした」と坂田は言います。「かといって丈夫ならいいというわけではありません。日常使いをするためには、やっぱり軽さも必要なんです」
こうした素材独自の性質を尊重するために考案されたのは、生地の無駄を一切出さないデザインでした。直線のみで構成される美しい形を基調にすることで、端切れを出さない製造過程を実現。このシンプルさを追求したデザインは、腰紐を通すボタンホールのような細部にまで反映されています。生地自体がしっかりしているため裏地を必要とせず、1枚の布のみからなるエプロンは着やすく、洗濯や乾燥も簡単に行うことができます。
エプロンの大きな特徴のひとつは、断裁前の反物からそのまま残された「耳」。この端の部分は、緯糸(よこいと)が左右に行きつ戻りつするシャトル織機だからこそできる美しい生地耳です。「Futoは布に特化したブランドなので、この素材がどうやって、どういう意図で織られているのかを理解するために、まず端っこを見るんですよ」と坂田は言います。「この耳が、布のアイデンティティを表しているんです」
そのアイデンティティとは、遠州地方の長い繊維産業の歴史をともに継承してきた職人たちの手によってつくられているもの。紡績や糸染めから、織布、加工、検反に至るまで、それぞれの工程は専門技術をもつ工場によって行われ、ひとつの生地を織るために互いが互いを必要としています。この不安定なエコシステムにおいて、どれかひとつのピースが欠けてしまえば─つまり、ひとつの工場が閉じてしまえば─生地を完成させることはできません。だからこそ、古橋織布と遠州の職人たちは、この土地の繊維産業を守っていくために弛まぬ努力を続けているのです。