私たちが出会った素敵な人たちに、その人の「視点」を綴っていただくコラムです。集まってくるさまざまな物語の中で過ごす、ゆたかな時間をお楽しみください。
モンゴル最北ロシアとの国境近くタイガの山間。馬でしか辿り着けないその場所に、トナカイと共に原始的な生活を続けているツァータン族が暮らしている。彼らの暮らしは現代の煽りを受け、民族の数は残り数十家族となり絶滅の危機に瀕している。ここで生まれ育ったニャンダルッチという青年がいる。民族には教育の義務は課されていないが、彼は親の意向で学校に通うため街に預けられ、小学校からはずっと街で暮らしていたという。民族が減少する理由の一つはこのパターンであり、一度街に出たら帰って来ないのだ。彼は高校まで通い、卒業した後はアルバイトをしていた。そして、そのアルバイト先で出会った彼女を連れてこの暮らしに戻ってきたのだ。その後二人は結婚。此処での暮らしを絶やさぬよう守り続けて行きたいと話す。 冬は−50℃にもなり、居住空間のウルツというテントの中は土の上にストーブと最小限の荷物があるだけ。非常に厳しい生活環境の中、街で生まれ育ったその奥さんは「色々な物はないけど、自然の中に生きるために必要なものは全てある」と話していた。激動し続ける世界の中、数千年も前から自然と調和した暮らしを変わらず続けるこの民族の希望になった二人。またいつか、その後の彼らを訪ねてみようと思っている。
[WRITER PROFILE]
山内 悠(写真家)
1977年、兵庫県生まれ。長野県を拠点に国内外で作品を発表している。独学で写真をはじめ、スタジオアシスタントを経て、富士山七合目にある山小屋に600日間滞在して撮り続けた作品をまとめた写真集『夜明け』(赤々舎)を2010年に発表。2014年には、太陽館の主に焦点をあてた山小屋での日々を著した書籍『雲の上に住む人』(静山社)を刊行。2020年夏、5年をかけて撮影し続けたモンゴルの写真をまとめた『惑星』が出版され、展覧会が開催される。
www.yuyamauchi.com
<新作展覧会のお知らせ>
山内悠「惑星」展
期間:2020年7月18日(土)ー8月30日(日)
会場:北海道札幌市・モエレ沼公園、ガラスのピラミッド内
詳細は下記よりご覧ください。
moerenumapark.jp/yuyamauchi_planet/
<新作写真集のお知らせ>
山内悠 「惑星」
刊行:青幻舎
著者:山内悠
アートディレクション:近藤一弥
判型:A4
総頁:144頁
製本: 上製
定価:5,000円+税
ISBN 978-4-86152-805-7 C0072
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