私たちが大切にしているもの。確かにあるのに指差すことができない。それは、目に見えるものばかりではありません。それらを、ひとつずつ読み解き、丁寧に表わしていく言葉の集積です。
冷たい雨の降る冬の朝。空気のなかにいつもと違う気分が混ざっていることを感じる。ヨーロッパで嗅いだ雨の匂い。毎日続く乾燥した空気の中に、雨が湿度をもたらし、体感温度が2度くらいあがったように錯覚する。石畳にあたる雨のやわらかい音が聞こえてくるような、雨模様。見上げたどんより空には、薄いねずみ色の雨雲が幾重にも重なって空を支えている。
私たちを取り巻く毎日の、さまざまな事柄はなかなかひとつの言葉で表せない。そこには気分や、匂いや、温度や音があって、結果的に「灰色の朝」のように集約されるとしても、実にたくさんの観察と感覚が折り重なっている。ふだん言葉に要約する機会などないことから、その感覚のゆらぎをしっかりと認識することは少ないけれど、私たちは数多くのゆらぎのなかにいる。これは「○色」でいこう、と器の色を決めていく過程においても、当然辿ることになるゆらぎのプロセス。どんな「黒」を伝えたいのか。星ひとつ輝かない漆黒の夜なのか、明け方の太陽のひとすじの光を受けた紺に近い黒なのか。「濃淡」を大切にしたい気持ちは、そこにある。毎秒ごとに変化する感覚のグラデーション。「濃い」と「淡い」の間にある無数のゆらぎ。このゆらぎを掴むために、静かな観察を続けていくことになる。
私たちを取り巻く毎日の、さまざまな事柄はなかなかひとつの言葉で表せない。そこには気分や、匂いや、温度や音があって、結果的に「灰色の朝」のように集約されるとしても、実にたくさんの観察と感覚が折り重なっている。ふだん言葉に要約する機会などないことから、その感覚のゆらぎをしっかりと認識することは少ないけれど、私たちは数多くのゆらぎのなかにいる。これは「○色」でいこう、と器の色を決めていく過程においても、当然辿ることになるゆらぎのプロセス。どんな「黒」を伝えたいのか。星ひとつ輝かない漆黒の夜なのか、明け方の太陽のひとすじの光を受けた紺に近い黒なのか。「濃淡」を大切にしたい気持ちは、そこにある。毎秒ごとに変化する感覚のグラデーション。「濃い」と「淡い」の間にある無数のゆらぎ。このゆらぎを掴むために、静かな観察を続けていくことになる。
イラスト:濱愛子
テキスト:スティルウォーター
[ILLUSTRATOR PROFILE]
濱愛子 (イラストレーター/グラフィックデザイナー)
紙版画を用いて、情感と力強さのある作品づくりを目指し、本、雑誌、広告に取り組んでいる。最近の仕事では、詩画集「今夜 凶暴だから わたし」(詩/高橋久美子、ちいさいミシマ社刊)、また、日本美術や、茶道具の世界で使われてきた形について紐解く「かたちのなまえ」(野瀬奈津子著、 玄光社刊)。それぞれ一冊を通して絵を担当している。HBギャラリーファイルコンペ大賞/永井裕明賞、東京イラストレーターズ ソサエティTIS公募入選(灘本唯人氏 「わたしの一枚」)、ADC入選、他。TIS会員。
https://aikohama.com/