CRAFT

Origins: Futo — 和歌山 自然に即したスピードから生まれる、いつまでも着心地のいいカットソー

私たちが身にまとう衣服は、どのように日々の生活を豊かにしてくれるのでしょうか? KINTO初のファブリックブランド「Futo」が手がけるロングスリーブカットソーは、KINTOが大切にするバランス、細部へのこだわり、クラフトマンシップを新たな視点で捉えたアイテムになりました。Futoを紹介するシリーズ第二弾では、カットソーという定番品に着目し、Futoのカットソーがいかにして生まれたのかに迫ります。

Text: Ben Davis (The White Paper)
Translation: Yuto Miyamoto
Video: Masaki Miyamoto
Special Thanks: 和田メリヤス

すべてのFutoのアイテムは、布との出会いから始まります。今回のロングスリーブカットソーの場合、それは和歌山県で編まれた柔らかく、ふっくらとした綿でした。和歌山の繊維生産が発展したのは18世紀初頭のこと。綿の足袋、紀州フランネル、そして縦横両方に伸びるニット素材「メリヤス」の生産を通じて、その産業は栄えていくことになりました。

このメリヤス生地から社名をつけた和田メリヤス株式会社は、70年にわたって高品質の生地を製造してきたニット工場。1957年の創業以来、彼らは「吊り編み機」──釣鐘のように天井から吊るされ、クルクルと回転しながら円筒状に生地を編んでいく機械──だけを使うことにこだわり続けてきました。そしてこの吊り編み機で彼らが変わらずに行ってきたのが、1時間に約1m編める程度のスローな製造方法。この生産スピードの遅さゆえに、高度経済成長期には多くの機械が高速で編めるシンカー機へと置き換わり、吊り編み機で編まれた生地とそのつくり手はますます少なくなっていくことになりました。しかし現代のスピード・効率・自動化の時代において、彼らの遅さから生まれた「量より質」のアプローチは、新たな価値をもち、高く評価されるようになっています。

「シンカー編み機が新幹線ならば、吊り編み機は各駅停車です」と、カットソーのデザインと開発を率いた​​KINTOの坂田は言います。「それは特急ですらない非効率な機械。しかし、吊り編み機で編まれたニットは自然の重力の重さで編むので柔らかく、肌に馴染む。自然のスピードに即した生地と言えます」

一般的な高速機械の約100分の1の速度で動く吊り編み機を使うことで、糸に余分なテンションが掛からないため、編み上がった生地はふっくらと空気をはらみ、しかもその柔らかさが持続します。厚みがありながら着心地の良い素材を求めていた坂田は、和田メリヤスが数十年をかけて試行錯誤と機械や工程の微調整を経てつくり上げた生地を選ぶことにしたのでした。

まったく新しいカットソーを目指すのではなく、より着心地のいい定番品をつくること。その考え方は、名古屋で染織・縫製・仕上げが行われたカットソーのデザインにも見られます。クラシックなデザインを基調とし、リブ編みの襟はちょうど良い幅に、アームホールは動きやすさのために広めに設計。袖の角度も、脇の下で生地がたわまないように調整されています。そのようにして生まれた形と機能のバランスがとれたカットソーは、どんな日常の場面にも馴染むものになりました。「素材の良さを素直に楽しんでほしいですね」と坂田は言います。「着れば着るほど、洗えば洗うほど、柔らかさと着心地の良さを実感していただけると思います」。このカットソーはきっと、お気に入りのレコードや手づくりの料理、コーヒーカップのように、着る人の日々の暮らしに寄り添ってくれるはずです。

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