PASSIONS

身近な自然に親しむきっかけを探して - Restaurant Maruta とともに -

食べるための野菜。飾るための花。
日々の暮らしのために植物を買うことはあっても、おのずと生きている “自然”に触れる機会は少なくなったように思います。

今回KINTOのスタッフが訪ねたのは、東京・深大寺でレストランとガーデンでの食の体験を通じて自然に親しむアイデアを届けているMaruta。
日々の暮らしのなかで自然を感じ愉しむヒントを探して、セミの声が聴こえる夏の午後、ワークショップを開催していただきました。

「日々のゆらぎ」を味わう

まずはレストランに隣接する深大寺ガーデンで、ドリンクをいただきます。
この日のお茶は、柑橘やブルーベリーの葉などの庭木から、自生するドクダミやヒメジョオン、ヨモギ、エゴマなどの野草をブレンドしたもの。茗荷の葉と金柑の花が入った冷たいお茶も用意していただきました。お茶のブレンドは、その日のガーデンの植物達を選定して作ります。
「深大寺ガーデンという、いきものが循環する場とつながるためのお茶です」とディレクターの外山さんは話します。

葉など、普段食べる果実以外の部分にも豊かな香りがあること。
今年は雨が少なく鳥達が食べに来なかったので今の時期にブルーベリーが採れること。
普段目に入っていなかったものや、年々変わりゆく気候を、酸味が心地よいドリンクを味わいながら感じます。

2018年にこの場所が出来てから7年。
花粉や種を運ぶ虫達とも共存しながら、この場所では色々な種類のハーブや植物たちが育ってきました。
都市緑化や植物のリテールを手がけるオーナーのグリーンワイズ、Marutaのみなさんも自然のつながりを育む一員として関わっています。ガーデンの管理を通じて日々の採集を行う中、小さな季節の変化を感じるようになったのだそう。

日々変化する自然をいただくからこそ、 “今日だけの”お茶。
つながりの中に身を置き、ゆらぎを愉しみます。

植物と人の「心地よい関係性」を考える

この日教えていただいたのはドクダミのサルサソースの作り方。
参加者がガーデンに生えているドクダミを探し採集することから、サルサ作りは始まります。

ドクダミは土のなかで根を広げ、株を広げる植物。
生え方を確かめながら、表面の土が乾燥しない程度に葉を間引くように採取します。

「除草というとやらなくてはいけない、という気持ちが強くなるけれども、サルサを作る材料を採っていると思うと見え方が変わりますよね。」とシェフの山口さん。

「ドクダミは春の新芽だと酸味が強いんです。なので春ならばレモンは少なめでも良いと思います。」
花が咲き終わった夏のこの時期はドクダミの香りが強くなるのだそう。参加したスタッフも味見をしながら、おのおのの好みの味にサルサを仕上げていきます。

この考え方は、日々提供される料理にも繋がっています。「メニューを作って材料として食材を調達するのではなくて、その食材にあわせてメニューを考えているんです。」と、山口さん。Marutaでは、その食材がどのような状態で、どう食べるのが美味しいか、一つひとつの食材と向き合いながら日々の料理を手掛けています。

食材はスタッフの生活圏に根ざした生産者の方々から直接仕入れたものを使用。そうすることで生産者の方と話してアイデアをいただいたり、あるいはMarutaでの活用の仕方や反応をお伝えすることもできるのだそう。
日々コミュニケーションをとっている生産者さんから分けていただいた食材だからこそ、なるべく無駄にせず全て使い切るよう心がけています。

テーブルに並ぶ前後も含めて、心地よい関係性の在り方を考え、行動する。ワークショップの隣で行われている仕込みでは、そんな過程の一部も見ることができます。

「野生の感覚」をひらく

ワークショップの後半では、ブッフェとドリンクを、お話を伺いながら味わいます。
自分たちが摘んだドクダミを使ったパスタ、カジキの薪火焼きも提供いただきました。「食べる」ことを通じて、香りや色もさらにはっきりと感じられます。

店内に並ぶ瓶の数々は、ガーデンや農家の方々の素材の流通に乗らないものや端材、自生植物などを漬けたもの。
ヨモギやドクダミなど身近な植物でもあまり価値が見出されていない種を活用することを念頭においているそうです。
リキュールやノンアルコールドリンクをゲストのリクエストにあわせて仕上げていきます。

「科が同じなど植物としての相性を参考にしたり、または地方や海外ゲストの方々の活用方法など、ゲストからアイデアをもらうこともあります。食事にあわせた“ペアリング”としての正しさではなく、飲み物の香りや味、素材同士の組み合わせや文化的背景など、ゲストの方自ら驚きや楽しさを感じていただく事で、足元の小さな自然にも気づくきっかけになればと考えています。」

ガーデンにつながるバルコニーでは、焚き火を見ながらゆっくりと過ごすことができます。 Marutaをつくった前オーナー・グリーンワイズの田丸さんもこの場所でコーヒーを淹れ、振る舞うことが好きだったそう。

日が沈み、外が少しずつ暗くなってくると、草の香りや、虫の声がいつもよりも濃く聴こえてきます。

今日1日色々教えていただいたことで、いつもより自分の五感が研ぎ澄まされ、身近で起きていることが繊細に感じられるような心地。
それをMarutaでは、「野生を呼び覚ます」と呼んでいるのだそう。
便利な暮らしのなかで鈍り閉じられていた、けれどもすぐ近くにいるものに対して五感をひらいていく。
日常のなかで見落としていた自然に一歩近づけたような気がします。

自然の物語を知り、自分の感覚をひらくこと。
植物と人が共存し続けていくための、心地よい関係性を想うこと。
日々の生長やゆらぎを、五感を使って愉しむこと。

身の回りで生きている自然とつながり寄り添う、そんなきっかけをもらう時間になりました。

Maruta

東京都調布市「深大寺ガーデン」内に、2棟の住居棟とともに2018年にオープンしたレストラン。自然に囲まれた環境や地域とのつながりを生かしたリジェネラティブな食の体験、また、「つながる暮らし」をテーマにしたワークショップ・イベント体験を提供している。

Photo: Kengo Kawatsura